建築実例

家事の余白を、愛犬と過ごす時間に

お子さまの独立という人生の節目。

それは同時に、30年連れ添った旧居での「小さなストレス」を卒業するタイミングでもあった。

約20坪の旧居で感じていた家事のしにくさや、来客時のプライバシーへの気兼ね。

そんないくつかの悩みを一つひとつ紐解き、たどり着いたのがこの住まいである。

 

プランの出発点は、敷地条件を逆手に取った「光の読み解き」にある。

南側に隣家が迫る環境に対し、建築士の水澤さんが出した答えは

「南を閉じて、北と東を開く」というもの。直射日光に頼らずとも、

一日中やわらかな光が室内を回る設計は、夫婦にこれまでにない安らぎをもたらした。

 

暮らしの質を劇的に変えたのは、4.5畳のランドリールームを中心とした洗面動線。

「洗う、乾かす、畳む、アイロンをかける」、これらすべてがワンフロアで完結。

ガス乾燥機から出したばかりのホカホカの洗濯物を、

その場の造作カウンターで畳み、隣のファミリークローゼットへ。

「朝の1時間半で洗濯がすべて終わります」と笑う夫人の表情には、

かつて階下と階上を往復していた頃の面影はない。

 

デザインのターンでは、建築士の三浦さんが夫婦の異なるこだわりを鮮やかに調和させた。

例えば、構造上どうしても外せなかったリビング中央の柱。

三浦さんはそれを独立させず、キッチンの折り下げ天井を延長して一体化させることで、

空間を緩やかに区切る美しいアクセントへと昇華させた。

 

ただ要望をなぞるのではなく、何気ない会話からふとした本音を拾い上げる。

プロとしての視点を添えて、期待を上回る答えを提案する。

その実直な向き合い方が、いつしか夫婦の確かな信頼へと変わっていった。

 

吹き抜けを抜ける風、愛犬たちの足音、お気に入りのスピーカーから流れる音楽。

30年の悩みを解消した先に待っていたのは、

家事さえも趣味のように楽しめる、軽やかで自由な毎日だ。

家族構成 夫婦+犬2匹
所在地 東京都昭島市
本体価格 3045万円
敷地面積 147.89m2 (44.7坪)
延床面積 100.44m2 (30.3坪)
竣工年月 2024年12月

担当
三浦 さつき

家族の距離を愛犬が繋ぐ
リビングに開放感をもたらすスケルトン階段。その下は、愛犬たちの専用スペースだ。家族の気配を感じながら、ワンちゃんたちもリラックスできる場所に
街角のカフェのように
天井のラインが奥行きを生むリビング。構造上必要な柱をデザインの一部として取り込むことで、空間に心地よい一体感が生まれた
ここから家族を見守る
キッチンに立つと、視線の先には吹き抜けのリビングが広がる。空間のメリハリが、落ち着きと開放感を同時に叶えてくれる。家族の笑い声が、自然と耳に届く設計
外に閉じつつ、光は取り込む
モノトーンを基調に、質感豊かなタイルで仕上げた外観。周囲の視線を遮りながら、北と東から安定した光を採り込む。都会的でありながら、どこかホッとさせる佇まい
見上げる、という贅沢
吹き抜けが心地よいリビング。足元には明るいナラの無垢床を敷き、天井の木目と調和させた。縦の広がりが、日々の心にゆとりをもたらしてくれる
家事が趣味に変わる瞬間
落ち着いたグレーのキッチンに、フロアタイルを合わせて。梁の中に隠したスピーカーからお気に入りの音楽を流せば、毎日の料理も特別なパフォーマンスに変わる
陰影を愉しむ
テレビ背面の壁には表情豊かなエコカラットを。梁をあえて出し、間接照明を仕込むことで生まれる美しい陰影が、夜のリビングを上質なバーのような雰囲気に
毎日の洗濯が数歩で完結
4.5畳のランドリールームは、まさに「家事の司令塔」。洗う、乾かす、畳む。そのすべてを数歩の範囲で完結させる。忙しい朝をゆとりの時間に変えるマジック
家事の隣に私の時間
ランドリールームに隣接する夫人の寝室。洗濯の合間にメイクをしたり、身支度を整えたり。やさしいベージュのクロスに包まれて、オンとオフをゆるやかに切り替える
「しまう」が迷子にならない
夫婦それぞれの寝室を繋ぐ通路を活用したファミリークローゼット。乾いた服をそのまま横にスライドして収納できる。暮らしを整える効率的なアイデア
オンもオフも受け入れる空間
書斎としても活用しているKさんの寝室。ウォールナットの床が落ち着きを醸し出し、夜になると間接照明が美しい陰影を描き出す。のびのびと自分に還れる場所
おもてなしは玄関から
玄関脇に設けた造作の洗面コーナーとベンチ。帰宅後の手洗いはもちろん、ゲストへの気遣いも忘れない。お気に入りの家具店と仕立てた一品が、空間に溶け込む
規則正しく光を取り込む
2階から見下ろすと計算して配置されたFIX窓が目を惹く。縦に並ぶ窓から入る柔らかな光が、一日を通してリビングを心地よい明るさで満たしてくれる
隠すという美学
グレージュのクロスが上品なトイレ。アクセント壁の裏側は、実はたっぷりの収納スペース。生活感をすっきり隠すことで、清潔感と心地よさがずっと続く
帰宅後もスムーズ
シューズインクローゼットからパントリー、そしてキッチンへ。アーチを抜けるたびに、暮らしが整っていく。買い物帰りの荷物も、そのまま仕舞える最短ルート
ノイズを消し、美しさだけを残す
「性能の良いエアコンほど奥行きがあり、インテリアの中で浮いてしまう」。そんな悩みを解決したのは、三浦さんの細やかな工夫だった。エアコンのサイズに合わせて壁を造作し、その中にすっぽりと埋め込む。さらに周囲の壁面で視線を分散させ、機械的な存在感を完全に消し去った

その他の建築実例