「せっかく注文住宅にするなら、面白いことをしたい」。
そんなクリエイティビティあふれる想いを胸に、家づくりをスタートさせたIさんご夫婦。
漫画家であるご主人と、絵が得意だという夫人のアイデアを、
建築士の上野さんがプロの視点で見事に翻訳し、唯一無二の住まいを完成させた。
その象徴が、アメリカ映画のポップな色彩を参考にした、全面イエローの書斎。
締め切り前には12時間以上こもることもあるという、ご主人の仕事場だ。
周囲からは「こんなに冒険して大丈夫?」と心配の声もあったそうだが、
完成してみれば、不思議と落ち着けるおしゃれな空間になった。
一方、家族が多くの時間を過ごすリビングは、
白い壁紙と木目でまとめた、シンプルで温かみのあるデザイン。
「かっこつけすぎず、子どものおもちゃが散らかっていても可愛く見える家にしたい」
そんな夫人のリクエストがもとになっている。
このニュートラルな空間だから、さまざまな「色」が映え、そして活きるのだ。
家に入った瞬間に驚かされるアーチのデザイン。これはIさんの
「玄関ホールの天井を低くして、和っぽいこもり感が欲しい」というオーダーに、
「冷蔵庫が搬入できるぎりぎりの高さ」というプロならではの視点を取り入れて、
実現に至ったものだ。
「家じゅうに好きな空間があることが、本当に幸せです」。
そう語るIさんの言葉通り、どの部屋にも家族のこだわりと物語が詰まっている。
自分たちらしい暮らしを、自分たちの手で描き上げた、最高の住まいがそこにあった。
明るいLと、落ち着きのDK
明るいリビングとは対照的に、ダイニングとキッチンは、少しだけトーンを落とした落ち着きのある雰囲気に。人気のグラフテクトのキッチンに、夫人が選んだタイルを組み合わせた。空間全体をシンプルにまとめたからこそ、そこに置かれた雑貨や小物たちのカラフルな色がよく映え、可愛らしいアクセントになっている
空と、月と、鳥と、暮らす
吹き抜けの開放感に満ちたリビング。本物の木を使った板張りの天井や、あえて見せる構造梁が、空間に温かみを添えている。高窓から見える青空や月、時折訪れる鳥の姿を眺めるのが、家族の新しい楽しみになった。
円卓を囲む場所
家族が集うLDKの主役は、まあるいダイニングテーブル。椅子はあえて一脚ずつ違うデザインを選び、遊び心をプラス。奥には、空間を引き締めるマットなグレーのキッチン。クールな無機質さと、木の温もり。異なる要素が絶妙なバランスで調和した、センスあふれる空間だ
引き戸という安全装置
淡いグレーのサイディングに、玄関まわりは濃いグレーの塗り壁。色の濃淡で変化をつけた、スタイリッシュな外観だ。通りに面した窓を控えめにすることで、外からの視線を気にせず過ごせるようプライバシーにも配慮。また、高さのある玄関ポーチでも安全に出入りできるよう、扉は開き戸ではなく、省スペースな引き戸を採用した
思い出の家具もしっくり馴染む
キッチンの床には、モダンなグレーのフロアタイルを採用。家族が大切に使ってきたお気に入りのカップボードが、新しい空間にしっくりと馴染む。アーチの奥には、可動棚を備えた大容量のパントリー。壁の一部はマグネットボードになっており、お子さん関係のプリントなどを貼るのにも便利だ
光の中を上っていく
小屋裏空間へ続く光あふれる階段。吹き抜けや高窓、そしてバルコニーからも光が差し込み、日中は電気いらずの明るさだ。しっかりとした固定階段は、小さなお子さんでも安心して上り下りできる。踏み板には十分な厚みを持たせて構造的な強度を保ちつつ、見た目はすっきりと軽やかに
我が家のまんが喫茶
小屋裏に広がるのは、夫人が長年夢見ていたという、壁一面の漫画ライブラリー。ずらりと並んだ背表紙は、圧巻の一言だ。この空間は、今ではお子さんにとっても「自分の部屋」のようなお気に入りの場所。家族みんなの特別なスペースになっている
和のこもり感でお出迎え
アーチ状の入口と、あえて低くした天井。それらが心地よい“こもり感”を生み出し、どこか「和」の趣を感じさせる玄関土間。Iさんが、自ら絵を描いてイメージを伝えるほど、細部にまでこだわりを詰め込み、理想の空間を実現した
まっすぐ伸びる光の道
明るい色のフローリングが心地よく続く玄関ホール。書斎からまっすぐ伸びる光の道が、上野さんのお気に入りポイントだそう。左手にはアーチ状にデザインされたシューズインクローゼット(SIC)があり、靴だけでなくお子さんのバランスバイクやバッテリー類もすっきりとしまえる。空間のアクセントとしてあえて見せた化粧柱が、SICと玄関ホールのほどよい境界にもなっており、独立した収納スペースとしての印象を保っている
窓の外は、緑の特等席
Iさんの書斎は、仕事の合間に仮眠もできるように広めの5畳を確保。壁には気分が明るくなるイエローのクロスを選んだ。ポップな見た目とは裏腹に、不思議と集中できる空間だそう。窓の外に広がる緑の借景が、仕事の合間の気分転換に一役買っている
タイル一枚にこだわる
窓から爽やかな光が差し込む、造作の洗面コーナー。この空間は夫人が描いた一枚のスケッチから生まれた。特に時間をかけたというタイル選びでは、たくさんのサンプルの中から、とっておきの一枚をじっくりと選定。こだわりが詰まった、宝物のような場所
未来を見据えたプラン
ランドリールームと脱衣室を一体にした機能的な空間。造作の棚はいずれ市販のガス乾燥機を置くことを見越して、あらかじめ幅や高さを計算した設計。隣の洗面エリアとは扉で仕切れるため、家族がお風呂に入っている時でも、気兼ねなく洗面台を使える。暮らしのシーンを想像した細やかな配慮だ
目線の先にお気に入りを
家族のこだわりと、上野さんの設計力が詰まった、美しいスケルトン階段。その壁面には、階段を上り下りする時の目線の高さに合わせ、飾り棚として使えるニッチを設けた。手前のリビング収納は、リズミカルなルーバー扉がアクセント。生活感をほどよく隠しながら、インテリアとしても空間に美しく馴染む
“とりあえず”の荷物もおまかせ
家族全員の衣類から、季節外のアイテム、大きな荷物まで、すべてを飲み込む大型のファミリークローゼット。天井までの空間を無駄なく活用し、圧倒的な収納量を確保した。この空間のおかげで各部屋がすっきりと保たれ、必要なものもすぐに取り出すことができる
クロスは組み合わせて使う
無地のクロスと、大胆なボタニカル柄のクロス。複数の壁紙を組み合わせた遊び心あふれるトイレ空間。デザインに強いアクセントが生まれ、個性的で楽しい雰囲気に。手前のニッチにはトイレットペーパーをディスプレイするように収納できるなど、機能性もしっかりと両立している
家族と一緒に育っていくオリーブの木
ひときわ印象的な、玄関まわり。温かみのある木目の扉の横には、シンボルツリーとしてオリーブの木を。家づくりと並行して進められた植栽計画で、家族の歴史と共に、この木もゆっくりと成長していく。無機質な外壁に、有機的な緑が美しいコントラストを描く