東西に細長い、約35坪の土地。一見すると、プランニングが難しそうなこの場所に、
すべての部屋が主役級の輝きを放つ、魅力あふれる住まいが完成した。
 
建築士の赤秀さんが目指したのは、
家じゅうに印象的な「スポット」を散りばめた、どこにいてもワクワクするような空間。
それは、玄関の扉を開けた瞬間から始まる。
 
ゲストを出迎えるのは、L字型の広い土間と、坪庭に植えられたシンボルツリー。
窓から差し込む光が緑を照らし、室内への期待感を高めてくれる。
1階のLDKは、リビングとダイニングの間に吹き抜けを設けた、リズミカルな構成。
階段と一体になった吹き抜けが、空間に楽しげな雰囲気をもたらす。
 
階段の正面には、この家のもうひとつの庭、「中庭」。
「マンション時代は、ベランダでピクニック気分を味わっていました。
新しい家では、プライバシーが守られた中庭が欲しかったんです」という夫人の願い通り、
視線を気にせず過ごせるこの場所は、今ではKさんが毎朝コーヒーを飲む、家族だけの特等席だ。
 
K邸を最も象徴するのが、アール壁と柔らかな曲線を描く踊り場。
壁にお子さんの絵を飾れば、そこは瞬時に家族のための小さな美術館に姿を変える。
 
玄関の坪庭、光あふれる中庭、そしてアールの壁。
家中に散りばめられたお気に入りの場所が、何気ない日常を少しだけ特別な時間に変えてくれる。
    
    このアーチには、訳がある
    室内を彩る、いくつかの美しいアーチ。その一つひとつは、デザインだけでなく、暮らしの機能から生まれた形だ。例えばこのパントリーのアーチは、「半円だと、中に置く予定の冷蔵庫の扉とぶつかってしまう」という発見がきっかけ。甘すぎない絶妙な角度を探るうち、機能とデザインを両立した、この家だけのオリジナルな形にたどり着いた
 
    
    閉じて、守る
    シンプルモダンを極めた、美しいライトグレーの外観。屋根は、一般的な片流れではなく、夫人の好みに合わせて可愛らしい三角屋根を選んだ。人や車の往来が多い立地のため、通りに面した窓は最小限に。外からの視線を気にすることなく、中で家族がのびのびと過ごせるよう、プライバシーを守る工夫が凝らされている
 
    
    家族をゆるやかに見守る
    ダイニングとリビングは、エリアを分けつつも、広い通路と大きな窓でゆるやかにつながる。キッチンで作業をしながら、リビングで寛ぐ家族の様子を見守る安心のプランだ。左手のアーチの奥は、階段下のスペースを限界まで活用した大容量収納。掃除機などの大きな物も、ここにすっきりと収まる
 
    
    座れるテレビボード
    リビングの木製テレビボードは、Kさんのオーディオセットがぴったり収まるよう、採寸して造作した一点物。ベンチとしても使えるようになっており、ここに腰掛ければ、隣接する中庭との一体感をより深く感じられる。壁の一部をガラスにすることで、玄関のシンボルツリーを借景として楽しむ粋な仕掛けも
 
    
    カーテンレールを、少しだけ伸ばす理由
    キッチンのアクセントになっている、木目調の折下げ天井。本物と見紛うほど精巧なクロス仕上げで、遊びに来た友人たちも驚くほどのクオリティ。窓を開けた時にカーテンが窓にかからないよう、カーテンレールを少し長めにするなど、赤秀さんの細やかな配慮が光る
 
    
    寛ぎの曲線美
    リビングに柔らかな印象を与えるRの壁。これは「家のどこかに曲線を取り入れたい」という家族の想いを、赤秀さんが見事に形にしたもの。「ここに座って本を読むのが、ちょうどいい寛ぎの時間です」とKさん
 
    
    手すりにも“家族らしさ”を込める
    2階へと続く階段には、シャープな印象のアイアンの手すりと、温かみのある木製の手すりを併用。この木製手すりは、赤秀さんがこの家のためにオリジナルで製作したものだ。「アイアンだけで統一するより、木を組み合わせる方が、Kさんのお家の雰囲気に合うと思いました」とのこと。異素材の組み合わせが空間に深みを与えている
 
    
    青空Cafe
    コの字型に建物を配置することで生まれた、プライベートな中庭。ここで毎朝コーヒーを飲むのが、Kさんの日課だ。リビングのテレビボードと一体感が出るよう、こちらのベンチも同じ高さで造作。室内と屋外、二つのベンチがつながることで、空間にさらなる広がりと奥行きが生まれている
 
    
    ふたり並べる洗面台
    ナチュラルな雰囲気で統一した、広々とした洗面室。2人が並んでも余裕のあるサイズ感で、慌ただしい朝の身支度もスムーズだ
 
    
    心地よさは、積み重ね
    玄関スペースにも赤秀さんの細やかなこだわりが満載。例えば空間の奥行きを強調するために長方形のタイルを縦に張ったり、プライバシーに配慮して玄関とトイレの扉が真正面にならないように配置したり。何気ない日々の心地よさは、こうした丁寧な仕事の積み重ねから生まれる
 
    
    アートが映えるエントランス
    シンプルな空間に、ビビッドな北欧アートがよく映える。玄関脇のコンパクトな手洗いスペースは、夫人が持ち込んだお気に入りのタイルやランプ、真鍮のバーを組み合わせて造作した、世界にひとつのオリジナル
 
    
    室内で借景をつくりだす
    扉を開けると玉砂利を敷き詰めた坪庭空間。シンボルツリーは外からの視線をさりげなく遮る目隠しでありながら、リビングから美しい緑を楽しむための「借景」にもなっている
 
    
    集中できるブルーの空間
    Kさんの書斎は、オンライン会議にも集中できるよう扉付きの個室に。カウンターは部屋のサイズに合わせてオリジナルで造作した。落ち着きのあるブルーのアクセントクロスは、ご自身で選んだお気に入りのカラー
 
    
    “干す”も、インテリアに
    洗面室のすぐ前のホールには、室内干し用のアイアンバーを設置。乾燥機にかけるとシワになりやすい、デリケートな衣類を乾かすのに重宝しているそう。吹き抜けを囲う鉄骨の格子は、安全性とデザイン性を両立。階下へと光を届ける、美しい光の通り道にもなっている
 
    
    “逆R”も活かす
    リビングのR壁のちょうど真裏に位置するトイレ。その壁のくぼみを“逆R”として活かし、飾り棚を造作した。「このちょっとした奥行きが、空間をゆったりと感じさせてくれるんです」と夫人は語る。足元のヘリンボーンの床も空間のおしゃれなアクセントだ
 
    
    柔らかな目隠し
    寝室には壁一面に大容量のクローゼットを。扉を付けずに、あえてカーテンで目隠しをするスタイルを選んだ。コストを抑えられるのはもちろん、扉と違って開閉スペースが不要なため、空間をより広く使えるというメリットも。柔らかな布地が、寝室の優しい雰囲気にそっと馴染んでいる