建築実例

視線が抜ける。心がほどける。

ふと見上げた視線の先に、遮るもののない空と遠くの街並みが広がっている。

都市の利便性を享受する場所でありながら、

この住まいに流れているのは、驚くほど静かで伸びやかな時間だ。

 

その広がりを生み出しているのが、2階に設けたLDK。

南側の大きな開口からバルコニーへとつながり、上を見れば吹き抜けを介してロフトへ。

その先には、遠くのビル群まで見渡せる。

横へ、縦へ、その先へと景色が続くことで、ひとつながりの大きな空間が生まれている。

 

けれど、この家の心地よさは、ただ広く見えるからではない。

 

リビングの一角には、室内窓でゆるやかにつながる書斎を配置。

仕事に集中していても、窓越しにはLDKの様子がわかる。

子どもたちはロフトで遊び、大人はリビングでそれぞれの時間を過ごす。

場所は分かれていても、お互いの気配を感じられる距離感が、

家族それぞれの自由な過ごし方を自然に受け止めてくれる。

 

キッチンにも、そんな日常に寄り添う居場所がある。

グレーのモルタル調で仕立てたキッチンカウンターは、

もともとはレシピを開くためのスペースとして設けたもの。

今となっては、タブレットで動画を眺めたり、Sさんが1日の終わりに晩酌を楽しんだり。

すぐそばにちょっと一服できる場所があることで、

キッチンで過ごす時間に、思いがけない寛ぎが生まれている。

 

ただ広い空間をつくるのではなく、視線の抜けと暮らしの居場所を丁寧に描き分ける。

日常を快適に営みながら、ふと見やる先にはいつも美しい広がりが。

その先に別の居場所があり、その向こうに街がある。

そんな連続したつながりが、Sさん一家の毎日に、

ほどよい距離と伸びやかな心地よさをもたらしている。

家族構成 夫婦+子ども2人
所在地 東京都中野区
本体価格 3,500万円~3,999万円
敷地面積 111.83m2 (33.8坪)
延床面積 113.26m2 (34.2坪)
竣工年月 2025年10月

担当
鶴田 慎一郎

家族の気配は、どこからでも
LDKを中心に、バルコニー、ロフト、書斎がゆるやかにつながる間取り。子どもが上で遊び、大人はリビングや書斎でそれぞれのことをしていても、声や気配はちゃんと届く。ひとりの時間と家族の時間を、きっちり分けない暮らしである
家族の定位置は、いちばん明るい場所
家族が長い時間を過ごすLDKは南向きに。バルコニーに面した大開口に加え、吹抜け上部の窓からも光が届く。明るさを取り込むだけでなく、上へと抜ける空間が、日々過ごす場所に伸びやかな広がりを与えている
グレーを主役に
グレーをテーマカラーに、柔らかさと重厚感をバランスよくまとめたLDK。天然石を用いた壁紙材も取り入れ、落ち着いた空気をつくっている。主張しすぎない色だからこそ、家具や小物、季節の花まで、暮らしの変化がよく映える
レシピ置き場、からの晩酌席
「タブレットでレシピを見る場所」として建築士の鶴田さんが提案したキッチン内のカウンター。今ではSさんがビールを飲んだり、ちょっと一服したりする場所に。帰宅後、ここで過ごす時間がいちばん長いかもしれないというほど、思いがけないお気に入りの場所になった
個性的でありながら、街にも馴染む
セメントの質感を楽しめるSOLIDOと、撥水性に優れたTEKTを組み合わせたシックな外観。2階のバルコニーには木目調の格子をあしらい、無機質な表情にほどよい温度を添えている。素材の違いが、シンプルな外観に奥行きをつくっている
ひと続きなのに、ちゃんと別々
LDKはひとつながりの大空間でありながら、天井や壁の素材を切り替えることで、キッチンとリビングをさりげなくゾーニング。パントリーの壁には調湿効果のある漆喰を採用している。壁を増やさず、素材の変化で暮らしの領域をつくる工夫だ
「取っておく」と「すぐ使う」
キッチンとダイニングの間には、細々した日用品や書類を収める造作収納を。子どもの医療証明書など、なくせないけれど、必要なときにはすぐ取り出したいものの居場所になっている。生活感を消すだけでなく、必要なものにすぐ手が届く。そんな収納が頼もしい
はじまりは「自転車3台、どこに置く?」
「玄関を開けたときに家の中が見えないように」「自転車3台を並べて置きたい」。そんな希望から生まれた屋根付きの駐輪スペース。自転車だけでなくアウトドア用品も置け、立水栓では自転車や車を洗える
仕事場も、家族のそばに
Sさんは月1回程度、夫人は毎日テレワーク。そんな暮らしに合わせ、書斎は寝室ではなくリビングの一角へ。仕事に集中する時間も、子どもを見守る時間も、どちらかを諦めなくていい
本棚の予定が遊び場に
遠くのビル群が見える景観を活かして設けたロフト。当初は漫画や小説を並べる本棚を置く予定だったが、今ではすっかり子どものおもちゃスペースに。遊び場がひとつ増えたことで、リビングが散らからないといううれしい効果も。吹抜け越しに声が届くのも安心だ
壁の向こうまで、仕事場
書斎とリビングをつなぐのは、かわいらしい室内窓。仕事に向き合いながらも、窓の向こうにいる子どもの気配が感じられる。完全に閉じるわけでも、ずっと一緒にいるわけでもない。家族のそばで集中するための、ちょうどいい距離がつくられている
「今、使っていい?」をなくす
LDKの先に水回りをまとめ、洗面室と脱衣室は分離。誰かがお風呂に入っているときでも、洗面台は気兼ねなく使えるようにした。洗面室内にトイレを配置して水回りへのドアをひとつにまとめるなど、家族が重なる時間まで考えた動線である
洗う、乾かす、たたむを完結
脱衣室はランドリールームも兼ねたつくり。ガス乾燥機と物干しパイプを備え、乾いた洗濯物をたたんだり、アイロンがけをしたりできる造作カウンターも用意した。洗濯物を持って家の中を行ったり来たりする手間を、できるだけ減らしている
トイレまで、ちょっといい時間
水栓とペーパーホルダーをステンレスで揃え、シンプルに仕上げたトイレ。そこに波模様のような柔らかな光が広がる照明を合わせた。毎日何度も使う場所だからこそ、機能だけで終わらせず、ふと気持ちがゆるむような設えに
靴好きには、靴好きの玄関を
2階のLDKへ上がる前に手を洗えるよう、玄関ホールには洗面台を配置。さらに、革靴集めが趣味というSさんのために、大きなシューズインクローゼットを用意した。「ちょっと広すぎたかな?」と思うほどの収納も、暮らし始めれば何でも入る頼れる存在に。内部は漆喰仕上げで湿気にも配慮している
子ども部屋、いまはセカンドリビング
1階の子ども部屋にはテレビを置き、現在はセカンドリビングとして活用中。子どもの成長に合わせて暮らし方が変わることを見越し、将来は間仕切りできるように設計している。部屋の使い方まで、最初から決めすぎない
いつか、ここをギャラリーに
1階から2階、さらにロフトへと一直線につながる階段。アイアンの手すりを採用したことで、すっきりとしたギャラリーのような雰囲気が生まれた。今はまだ階段だけれど、将来はここに絵や写真を飾る予定。暮らしながら、家の景色も少しずつ育っていく
花が、いちばん映える家
くすんだ水色のようにも見えるグレーのタイルが、空間に落ち着いた表情を添えている。背景を静かな色味でまとめたからこそ、花瓶のデザインや季節の花がよく映える。暮らしの中で増えていく「好きなもの」を受け止める余白がある

その他の建築実例